
概要
地震直後に市役所や消防署などの防災拠点建物の健全性をいち早く診断する技術の開発が求められています。私たちは建物に設置した地震計の記録から、機械学習の技術を用いて、建物の被害状況を遠隔で即時に判定する手法・技術を開発しました。

従来技術
・目視による外観調査のみでは、建物内部の被害状況は分かりません。また、被災した建物の内部に入ることには危険が伴います。
・地震計による観測記録から建物の健全性を評価するには、長時間の解析が必要でした。
優位性
・地震発生直後の建物の損傷度合いを、遠隔で即時に推定可能です。
・推定結果は自治体の防災担当者にメールで送付されます。
・地震発生後の避難や建物継続利用の判断など、地震後の対策・対応に役立ちます。
特徴
CNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)という機械学習の方法を用いて、建物上層階に設置された地震計の観測波形のウェーブレットスペクトルの画像から、被害の程度(無被害、軽微な被害、中被害、大被害、倒壊)や継続使用の可能性(安全、注意、危険)を遠隔で直ちに診断する技術を開発しました (図1) 。
《詳細》
- 建物上階の地震計記録を用いて、ウェーブレットスペクトルをCNNモデルの入力とし、各階の最大塑性率、層間変形角、最大応答加速度を予測します。
- CNNモデルによる予測値と基準値との相関係数は、全ての応答値で0.8を超え、高い精度を確認できました (図2) 。
- 損傷情報は、建物の目標性能に応じて「損傷なし」「軽微な損傷」「大きな損傷」「重 大な損傷」に分類されることが確認できました。
- 構造物の損傷予測の精度を検討するために、新たな指標としてDCRとRUURを提案しました。この値が大きいほど精度が高いことを意味しており、大きな損傷ほど予測精度が高いことが分かります (図3)。
DCR(damage condition ratio:損傷状態比率)
RUUR(restricted or unsafe use ratio:制限・危険使用比率)


(a)予測値と基準値(点)と損傷状態領域の比較
(b)特定の地震に対する建物各階の損傷の
予測値(赤)と基準値(黒)との比較

実用化イメージ、想定される用途
・防災拠点建物の地震被害診断システム
すでに東三河地域のすべての市庁舎に地震計を設置しており、今後、それぞれの市庁舎について本手法の有効性を検証して、実装化を図ります。
実用化に向けた課題
本手法を適用するためには、インターネットに接続できる地震計を建物に設置することが必要です。そのための費用が課題となります。
研究者紹介
齊藤 大樹 (さいとう たいき)
豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 教授
researchmap
研究者からのメッセージ(企業等への提案)
南海トラフ巨大地震の発生が間近に迫る中、地震直後の建物の健全性を知ることは、従業員の避難だけでなく企業の事業継続の判断にも必要不可欠です。本技術が少しでも役立つことを願います。
知的財産等
掲載日:2022年02月21日
最終更新日:2022年02月21日